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なおなおのクトゥルフ神話TRPG

クトゥルフ神話TRPGを中心として、ゲーム関連の話題を扱っていきます。



【第20回】短編小説の集い「赤い靴」

短編小説

ちょっと感動ものみたいなのにしようかと

いつものことではありますが、今回もこちらの企画に参加させていただきます。

たまには感動ものもいいなと、前回の投稿作品を見ながら考えていたので、今回はそう言う路線にしてみました。クトゥルフの神話生物は出てきませんが、アーティファクトのような形で要素を取り入れてみました。

と言っても、結末は世にも奇妙な物語風になってしまっていたりしますし、文章の構成も結構微妙な感じがするので、20日までを目処に手直しは入れるかもしれません。

 「赤い靴」

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日高優子は、数日後に迫った期末試験の試験勉強のために親友の有坂茜の自宅を訪れていた。

有坂茜の自宅はごく普通の一軒家で、特に目立ったところはない。しかし、都内の高級住宅街に一軒家を構えているという事実は、彼女が人並み以上に裕福な家に生まれていることを物語っていた。

しかし、彼女の部屋に入った時、その小綺麗な部屋には似つかわしくないボロボロになった赤い靴が机の上に飾ってあるのを見つけた。しかし、あまりの変貌ぶりにすぐに気づかなかったが、その靴が何であるかは日高自身が一番分かっているはずであった。

「茜ちゃん、この靴は?」

「あら、ごめんなさい、せっかく貰ったのにボロボロにしちゃって・・・。」

「いや、ちゃんと使ってくれたんだから良いんだけど。こんなボロボロなら、もう履けないでしょ。わざわざ飾っておかなくても・・・。」

「いえ、この靴は優子ちゃんから貰った大切なプレゼントだから・・・。それに・・・。」

茜は折角のプレゼントをボロボロにしてしまった罪悪感からか、伏し目がちに答えて押し黙る。二人の間にしばらくの沈黙が訪れ、優子はマズい事を訊いてしまったことに後悔を感じ始めた頃、茜はゆっくりと話し始めた。

 

ゴールデンウイークの初日、茜は幼馴染の長崎宏美とともに登山に来ていた。登山と言っても、せいぜい標高2000m程度の山なので、そこまで本格的なものではなかったが、茜は明らかに登山には向かないであろう赤い靴を履いてきていた。

「ちょっと、茜ちゃん。その靴で登山はやめといた方がいいよ。」

登山に使うには、あまりにも綺麗で高そうな靴だったため、宏美はそう忠告したが、一方の茜は、さほど気にも留めない様子で「一番のお気に入りだから、こういう時に履いて行きたいのよ。」と答えた。

宏美も忠告こそしてみたものの、靴自体はスニーカータイプで別に登山として使うのに問題があるわけでもなかったため、肩を竦めながらも茜の意思を尊重することにした。

 

そうして山を登り始めた二人ではあったが、途中までは天気も良く山間から吹く風もとても清々しいものであった。二人は昼を少し回った頃に山頂に着き、二人でお弁当を食べながら、二人の近況、学校のこと、友人関係のことなど他愛もない事を話していた。

そして、お弁当を食べ終わり、いざ、山を下りようとした時に問題が発生した。山の天気は変わりやすいと聞いていたが、先ほどまでクリアだった視界が一瞬のうちに深い霧に覆われてしまったのである。その瞬く間の出来事に動揺してしまった茜は宏美ともはぐれてしまい、山道をさまよっていた。

山のことに詳しいのであれば、そういう時はなるべく動かないようにする方が良いのであるが、山に慣れていない茜は動揺のあまり深い霧の中を動いてしまったのである。そんな彼女が遭難してしまうのに、さほど時間は必要なかった。

 

しばらくの間、さまよい歩いていた茜はひたすら歩き続けていたこともあって、少しずつ疲労が蓄積していた。しかし、傾き、沈みつつある太陽を見ると、早く麓に下りないとと焦りが募り、彼女は足を止めることができなかった。

「宏美ちゃんは大丈夫かなあ。」

彼女は不安な心を紛らわせるために、はぐれてしまった幼馴染のことを心配していたが、本心では自分はもう山から下りられないんじゃないかという不安を抱えていた。

さほど深い山ではないとはいえ、迷ってしまえば抜け出すのは難しい。彼女は時折見える景色を頼りに山を降りていったはずであったが、街の景色は近くなったと思えば、次には遠くなり、何度も道が間違っているのではないかという不安に駆られてしまっていた。

 

やがて日が沈み、辺りが暗くなってくると、街には暖かい明かりが灯り始め、街の場所は明確な主張を始めていた。その一方、彼女の足元には一寸先の状況ですらわからないほど暗くなっていた。

これまでは不安に感じながらも歩を進めることができていたが、こうなってしまうと一歩を踏み出すのも難しくなってしまう。ついには、彼女は先の見えない恐怖に歩くのをやめてしまった。

へたり込んだ茜は気持ちを落ち着けるために、おやつとして持ってきていたチョコレートを一つ口に放り込んだ。すると、チョコレートの甘さが口の中から全身に広がり、疲れた体が癒されるのを感じた。そして、二つ目を口の中に放り込もうとした時、視線の先に暖かい街の明かりが煌々と輝いていた。その暖かさに満ちた明かりは、彼女の晩御飯や家族団らんの光景を想起してしまい、先ほどまで「無事に帰れるまでは決して泣かない。」と強く決めていたのも虚しく、一筋の涙がこぼれ落ちていた。そして、一度こぼれ落ちてしまったことに気づいた彼女の涙は、次の瞬間、決壊したように溢れてしまっていた。

ひとしきり泣きながら、茜はへたり込んだまま膝に顔を埋めていた。しばらくして、少し気分が落ち着いてきたため、少し顔を上げると、そこには以前、優子からプレゼントとして貰ったお気に入りの赤い靴があった。そして、その靴を見つめながら、彼女のことを思い出していた。

 

優子は同学年であったが、やや大人びていて面倒見が良く、茜が困っていると助けてくれることは珍しくなかった。そんな優子に対し、茜は自分と比べて釣り合いが取れていないと感じることも多く、なんで自分に対して色々助けてくれるのか疑問に思ったことも一度や二度ではなかった。

その思いが溜まりに溜まったある日、茜は優子に意を決して訊いてみた。

「優子ちゃんは、なんでいつも私を助けてくれるの?」

「うーん、友達だからかな。友達が困っているのを助けるのは当然だし。」

「でも、私、優子ちゃんに助けてもらってばっかりだし、不公平じゃないかなって思うんだけど。」

「そんなことはないよ。私って大人びて見えるせいか、みんな友達として見てくれないんだよね。でも茜ちゃんは、こんな私にも普通の友達として接してくれてる。それが私には一番嬉しいことなんだよ。」

優子の答えに茜は納得していた。確かに他の子の様子を思い出してみると、どこかよそよそしい感じに見えなくもなかった。その一方、茜は優子に対しても他の友達と同じように普通に遊びに誘ったりしていた。もちろん、茜の方も困っている時に助けてくれるだけでなく、自分と違う見識を持っている彼女は友達の中でも特別であった。

 

そんな事を思い出していると、自分のすぐ近くに優子がいるような気がしてきて、茜はそんな優子の気配に向かってつぶやいていた。

「優子ちゃん、助けて。」

そうつぶやいた瞬間、茜の体には再び勇気が戻ってきていた。先ほどまでは溢れて止まらなかった涙も、いつの間にか止まっていて、力が抜けてへたり込んでいた足にも少しずつ力が戻ってきていた。

もちろん、辺りは真っ暗で足に力が戻ってきたとは言え、進むことも戻ることもできない状態であったが、彼女は力の戻ってきた足に促されるまま立ち上がった。

「わわっ」

茜が立ち上がると、茜の足は不思議な力で前に歩き始めていた。最初はバランスを崩したのかと思い焦ったが、自分の意思で歩いているわけでないにもかかわらず、決してバランスを崩すことはなかった。

赤い靴によって足を動かされている状況を見て、昔聞いた童話の中で、赤い靴を履いた少女が踊りを止められなくなり、最後は足を切る羽目になったことを思い出していた。

「もしかして、私も死ぬまで歩かされるのかな?こんなところに赤い靴を履いて、見せびらかしたかったと思っていたからなのかな?」

童話の内容を反芻しながら、茜は自分が無理矢理歩かされている状況について、原因を考えていた。この状況で自分の意に反して歩かされている状況はとても恐ろしいものであったが、それと同時に優子が自分を支えてくれるような気がしていて、奇妙な安心感があった。そのおかげもあって、いつもであれば泣き出してしまいそうな、こんな状況にもかかわらず、不思議と心は冷静なままであった。

 

何時間歩いただろうか。実際はそんなに長く歩いたわけではないのだろうけれど、自分の意思で歩いているのでないという状況は、彼女の時間の感覚を何倍にも引き伸ばしていた。そんな茜の思いとは裏腹に、足は、いや靴はおかまいなしに前へ前へと進んでいた。

 

そうして、長いようで短かった不思議なダンスは、彼女の目に一つの仄明るい光が飛び込んでくるまで続いていた。

「ここは?」

靴による歩みが止まると、そこには見慣れた舗装道路に街灯が一つ置かれていた。その街灯の下には一つの影があった。その影は茜の姿に気づくと、一目散に走り寄ってきて抱きついた。

「うわーん、茜ちゃん、無事で良かったよう。」

それは昼過ぎまで一緒にいた幼馴染であった。彼女は一人無事に帰ってきてしまった罪悪感から、こんな時間まで待ち続けていたのであった。

「もう大丈夫だから、早く帰ろう。もうこんな時間だし、ね。」

無事であったという安堵感からか、泣き止まない宏美を嗜めつつ家に帰る道を二人で歩み始めた。ふと足元を見ると、お気に入りであった赤い靴はボロボロになっていた。

「せっかくプレゼントしてくれたのに、こんなボロボロになっちゃった。あとで謝らなくちゃね。」

茜は今回も窮地を救ってくれた友人を思い浮かべつつ、そう呟いた。

 

「へえ、そんなことがあったんだ。でも、無事で良かったね。」

 優子は話を聞いて、ニッコリと微笑んだ。

「これも優子ちゃんのおかげなのかもしれないね。でも、ゴメン、ボロボロにしちゃって。」

「でもさ、この靴は捨てちゃってもいいんじゃないかな。靴はまたあげるからさ、ね。」

「うーん、でも私が助かったのって、ある意味、この靴のおかげだし、記念に撮っておきたいな、なんてね。」

「じゃあ、こうしようか。今日は茜ちゃんにプレゼントを持ってきたんだけど、それが気に入ったら、これと交換しよう。」

そう言うと、優子は茜に箱をそっと差し出した。

「そうは言っても、これ以上に思い入れのあるものは・・・。」

と言いながら、開けた箱の中には先日ボロボロにしたはずの赤い靴と全く同じものが入っていた。

「なんで・・・?」

「靴は飾るものじゃなくて、履くもの。茜ちゃんには、この新しい靴で思い出の続きを作って欲しいなと思って。」

そう言って、驚いて呆然としている茜に、ニッコリと微笑んだ。