なおなおのクトゥルフ神話TRPG

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【特別企画】「なつやすみの宿題 納涼合宿」「あかがみさま」

今回はテーマというよりは怖い話ということで、一本書いてみました。

novelcluster.hatenablog.jp

今回はクトゥルフの要素はほとんどありません。純粋に和風な怖い話になっています。

もっとも、自分で書いて読んでみても全然怖くない(ネタわかっているため)ので、自分的にはかなり微妙な話ではありますが、練習がてらみたいな感じで投稿してしまいます。

 「あかがみさま」

これは、私が大学生の頃、いとこの友人のお姉さんが実際に体験した話です。

彼女の学校は田舎とはいえ、私立の良いところで校舎も最近改装したばかりで大部分はピカピカだそうです。
しかし、彼女の学校には歴史的な価値とか何とかで、全く取り壊されない建物がありました。
戦後、しばらくは校舎として使われておりましたが、それ以降は生徒の立ち入りは基本的に禁止されておりました。
一時的とはいえ校舎として使われていたことから、便宜的に旧校舎と呼ばれていました。

戦前から現存していた建物のためか、外見も内装もひどくボロボロで普通なら誰一人近寄ることのないような建物でした。
とはいえ、好奇心旺盛で怖いもの知らずな生徒の中には、隙を見て忍び込む者も少なからずいたようです。

その旧校舎には、一つの奇怪な怪談が生徒達の間でまことしやかに伝わっていました。
彼女も以前は詳しい話を聞いたことがなかったらしく、赤い髪の怪物が出るという程度しか知りませんでした。
しかし、彼女が高校2年になったときの部活動の夏合宿の時、ちょうど夏のイベントということで肝試しをすることになりました。
当然ながら、雰囲気を盛り上げるために怖い話をしてからという流れになり、そこで同じ部活動のHちゃんが最初に話をしたそうです。

Hちゃんは、大きく深呼吸すると次のように話し始めました。

昔、この学校の旧校舎、あのオンボロの建物のことですが、あそこはとある戦に負けた武将たちの処刑場だったそうです。
もちろん、処刑された人間は一人や二人でなく、数百人に上ったと言われているそうです。
当然ながら辺りは血の海で、そこらじゅうに彼らの首が転がっていたそうです。
処刑される悔しさから相当に抵抗したのでしょう、彼らの首から生えている髪の毛はまるで血の海にただよう海藻のように真っ赤に染まって漂っていたそうです。

それから時は流れましたが、彼らの怨念が消えることはありませんでした。
なぜなら、今でも夜中に旧校舎を歩いていると、目の前に髪が落ちていて、それは血のように赤い色をしているとか。
そして、それに目を奪われていると、背後から「カツーン、カツーン」と硬い足音が聞こえてくるそうです。
もちろん、それを聞いてみんな逃げるのですが、その足音は獲物を追い詰めるように少しずつ近づいてくるそうです。
そして、遂には真後ろから足音が聞こえるようになって、恐る恐る振り返ると、血に染まった赤い髪を振り乱した人影が立っていたそうです。

もちろん、咄嗟のことで詳しく見てはいませんでしたが、あれは間違いなく赤い髪を振り乱した落ち武者だったそうです。とは言うものの、彼女は見た直後に気絶してしまい、目を覚ました時には影も形も無くなっていましたので、本当にそのような姿だったかはわかりません。
そんな彼女は1ヶ月ほど経ったある日、自動車事故に遭って鞭打ち症にかかってしまったそうです。
その姿を見た周囲の人達は、彼女を斬首された武将に見立てて「あかがみさま」の呪いだと噂したそうです。

そこまで話すと、Hちゃんは再び深呼吸をして「なんてね。」と言いながら微笑んだ。
その様子を見て、先程まで話を聞いていた時には静寂に支配されていた場の雰囲気が、少し和らいだような気がしました。
確かに、真実味のある話ではあるものの、よくある話のような内容でもあったことから、誰かが「面白い作り話だね。」というと、周りの全員が暗黙に了解していたようでした。

他にもいくつか怖い話をした後、「準備は整った」ということで、旧校舎へと二人一組で向かうことになりました。
目的地は、その旧校舎の3階奥にあるトイレで、そこにあらかじめ置いてあるカードを取って戻ってくるということでした。
内容はいたってシンプルではあるものの、夜中の、しかも誰も近寄ろうとしない旧校舎に、あんな話を聞いた後では行きたくなくなるのも当然でではありましたが、一組ずつ旧校舎の中に消えていき、遂には彼女とHちゃんの番になりました。

二人は懐中電灯を握りしめ、非常灯しか明かりの無い旧校舎へと入っていきました。
最初は怖いと思って進むのに躊躇していましたが、1階の廊下の半分ほどを過ぎた頃には、早く終わらせたいという気持ちから無意識のうちに二人は早足になっていました。
やがて、奥にある上へと続く階段にたどり着いた時、足元を照らした懐中電灯が彼女の足元に落ちているものを捉えました。

それは赤っぽい色をした紙切れのようでした。

彼女は恐る恐る拾い上げると、懐中電灯を当てて調べてみました。
『赤』と言っても、燻んだ色で懐中電灯を当てなければはっきりと赤であることに気づかない程でした。
また紙切れの表面には、ほとんど読み取ることはできなかったものの、何やら文字が描かれているようでした。
何が書いてあるのか調べるために、彼女は懐中電灯を当ててみました。

しかし、その時、不意に二人の耳に足音が聞こえてきました。

「カツーン、カツーン」

聞きなれない足音が二人の方に少しずつ近いづいてきているようでした。
「何これ?!」「誰の足音なの?」
突然の違和感に二人は完全に動揺してしまい、パニックになってしまいました。
しかし、確実に近づいてきている足音に気を取り直し、二人は距離を取るために階段を駆け上がりました。
ただ、その足音は二人のスピードに合わせるように、少しだけ早いペースで向かってきており、離れるどころか逃げているにもかかわらず、少しずつ近づいてきていました。
二人は目的地の3階に行くことも忘れて、できるだけ足音から距離を取るために2階の廊下を入り口側の階段に向かって走りました。
それでも足音は徐々に近づいてきており、追いつかれるのは時間の問題でしたが、このまま走れば入り口側の階段から降りて外に逃げられる、はずでした。

走り続けた二人の目の前には階段ではなく、そこにはあるはずの無い壁が立ち塞がっていました。
「やばい、どうしよう。」「こっち来ているよ。」
二人は動揺して涙目になりながらも何とか逃げようとしましたが、その努力も虚しく足音は二人の真後ろでピタッと止まりました。
恐る恐る振り返った二人の目の前には一人の兵士が立っていました。

二人は、その異様な姿に全身から力が抜けてしまい、その場にへたり込んでしまいました。
兵士はしばらく二人の様子を見ていましたが、おもむろに彼女の肩とHちゃんの脚を強く握りしめると、地の底から響くようなおぞましい声で話しかけてきました。
「お前たちは、何をやっている!」「お前たちは、何で生きている!」「お前たちは、それでも・・・」
他にも「お前たち」で始まる言葉を言ってきていましたが、あまりの恐怖心で何を言っていたかは全く覚えていませんでした。
その間も二人を掴んでいる手の力はますます強くなり、かなり痛みを伴うようになってきていました。
そして、二人の恐怖を痛みが限界に近くなった頃、二人は激しい光と衝撃に襲われ弾き飛ばされてしまい、そのまま気絶してしまったそうです。

「・・・ちゃん!・・・ちゃん!」
聞きなれた声に二人は目を覚ましました。
すると、傍には部長と副部長が屈んでおり、二人を起こそうとしていました。
「部長・・・さん?」
「Kさん、Hさん、大丈夫?」
部長が二人の様子を確認してきました。
二人は最初は意識が朦朧としていましたが、徐々に意識が戻り、ふらつきながらも歩ける程度には回復しました。
部長と副部長は、それぞれ彼女とHちゃんに肩を貸して宿泊所まで戻ってきました。
後で二人が確認したところ、それぞれ掴まれていたところが赤くなっていたそうです。

後日、二人が肝試しのことを顧問の先生に話したところ、神妙な様子で二人に話しをしてきました。
「お前たちは『あかがみさま』の本当の真実を知らなかったんだな。だが、それが原因で『あかがみさま』に襲われてしまったわけだ。」
「そ、それは一体どういうことですか?」
「あの兵士は、お前たちも見た通り、第二次世界大戦で戦った日本兵の亡霊ってやつだ。ただ、あれは特別攻撃隊、いわゆる特攻隊の兵隊なんだよ。」
「あ、あの飛行機で敵に突っ込むというやつですか?」
「そうだな、有名なのは神風特攻隊、お前が今言ったやつだが、特攻隊はそれだけじゃなかった。あれは回天特別攻撃隊、いわゆる人間魚雷として散った兵隊なんだよ。」
「そ、そうなんですか。それは初耳です。」
「まあ、知らんのも無理はない。なにせ、特攻隊で多少なりとも成果が上がったのは神風特攻隊くらいだったからな。」
そう言って、先生は一呼吸おいて話しを続けました。
「で、この旧校舎はな、その回天特別攻撃隊の学校みたいなものだったんだ。と言っても教えていたのはくだらない精神論だったけどな。で、彼らは国のため、国民のtめに死ぬことの意味を教えられ続けていた。もちろん、生徒同士では生きて帰ってこようとか言っていたのだろうな。だからこうして、死んでから魂だけが帰ってきているわけだ。」
「そうだったんですね。」
「それで帰ってきてみれば、讃えられるどころか、記憶にすら留まっていない。あまつさえ、自分たちのことを別の何かと勘違いしているとなれば怒るのも無理はないだろうね。だから君たちの前に現れたんだろう。」
「そんな・・・。」
「念のため、どこかの神社でお祓いをしてもらうといい。どこまで効果があるかはわからないがね。それでも最悪の事態は免れるはずだよ。」

翌日、彼女とHちゃんは近くの神社でお祓いをしてもらったそうです。
しかし、その怨念の強さからか、彼女は部活動の最中に肩を脱臼し、Hちゃんは自転車で転んで脚を骨折してしまったそうです。
それでも、後で先生に聞いた話では、下手をしたら脚や腕が無くなってしまっていたかもしれないということでした。
それ以来、二人は旧校舎に決して近寄らなくなり、Hちゃんは曖昧な噂話をすることがなくなったそうです。

先の大戦では、儚く命を散らした者が数多くいました。
しかし、彼らを揶揄するような噂話をしていると、あなたのところにも『あかがみさま』が現れるかもしれません。