なおなおのクトゥルフ神話TRPG

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【第18回】短編小説の集い「金鵄」

今回はギリギリになってしまいました。

毎度、こちらの企画に参加させてもらっています。今回は書き始めるまでに異様に時間がかかってしまい、書き始めたのが29日の朝、書き上げたのも29日の朝という感じでした。色々と悩んだんですけど、やはりクトゥルフは何としても絡めたいということで、冒険小説っぽい感じにしてみました。

ちなみに、キャラクターはカクヨムで書いている長編小説キャラの使いまわしですので、今回のためにキャラクターを考えたりとかはしていません。実際に書くのにかけた時間は3時間程度と過去最短かもしれません。

 「金鵄」

川端裕也は捕らわれていた。ここは、とある南半球にある島。考古学者である彼は、この島にあるという遺跡を調べるために来ていた。もちろん、遺跡はあったし、そこにある遺物を見つけることも、彼らにとってはそれほど難しくはなかった。もちろん、この時代まで噂はあれども、見つけ出してきた者はいないということは、何かあるのは最初から予想はしていたが、襲われて捕まってしまうとは予想外であった。

「くそ、こんな時にあいつがいてくれれば。」

と、ここにはいない知り合い、海辺弘樹のことを考えながら悔しがる。もちろん、身を守る術の無い彼にとって一人で襲われて捕まってしまったのは不覚ではあったが、それ以上に、せっかく手に入れた遺物を奪われてしまったことが悔やまれてならない。もっとも、相手の立場で言えば、自分の方が遺物を奪った犯人ではあるのだろうが。

「次回の論文はどうしようか・・・。」などと、暢気そうに呟いてはみたものの、明らかに状況は良くない。下手をすれば明日にでも殺されてしまうかもしれないのである。自分を捕まえた者が、どのような素性の者かはわかってはいるし、捕まっている場所も、遺跡の傍にある祠のようなものであったことはわかっている。ここは二人で見つけた場所であったし、相方に場所を伝えれば、助けてもらえるかもしれない、という考えはあった。

「しかし、どうやって外に伝えるかだよな・・・。」

ここは、南半球とはいえ、かなり緯度が高く、外は激しくはないが雪が降っていた。しかし、何よりも彼の目の前にはきっちりと施錠された重い扉が立ちはだかっているのである。今の状況を一通り分析すると、彼は懐に手を伸ばした。そして、懐から、一羽の文鳥を取り出す。それは、数年前に買った文鳥だが、何回か今回のようにフィールドワークのお供に連れてきていた。もちろん、彼は結婚もしているから、寂しさにということはないはずである。
しかし彼は時々、妻の様子が変わって寂しさを覚えることが多かったため、それを紛らわせるために飼うことに決めたのである。もちろん、フィールドワークは今回のように危険が伴う場合もあり、妻を一緒に連れていくことはできない。その時の寂しさを紛らわせるためというのもあった。

「うーん、こいつの足に手紙でもくくりつけてあの窓から放せば、あいつの所に飛んで行ってくれるかな?」

彼は小説めいた発想を考えてはみたが、いかんせん鳥である。そこまで信頼できるかどうかというのは、ほとんど賭けに近かった。しかし、今は遺物を元の場所に鎮めるために儀式をしているのだろう、奴らのほとんどは出払っているようであったが、戻ってきたら口封じのために殺されてしまうかもしれない。そう考えると、かなり低い確率だったとしても、それに縋るしか選択肢は残されていなかった。
仕方なく彼は今、祠だと思っていたところに捕らわれている、とメッセージを書いた紙を文鳥の足にくくりつける。もちろん、外は雪のため、紙が濡れないようにビニールで包んでおいた。そこまでしてから、おもむろに窓のところに向かい、文鳥に顔を近づける。

「頼むから、あいつの所まで無事に飛んでくれよ。」

言葉がわかるわけでもないはずだが、それでも言い聞かせるようにしてから、窓の外で文鳥から手を放すと大空へ飛び立っていった。

それからの彼は、ひたすら待つしかなかった。二時間、三時間・・・いや、それ以上に待っていたが、一向に助けが来るようすはなかった。文鳥を放った頃、外は夜の闇が支配していたが、今は空も明るみ、完全に夜が明けている。失敗した、という実感が徐々に彼を支配してくるが、元々助かる見込みは皆無に近かったこともあり、役目を果たせなかった文鳥に恨みを抱くようなことも無かったが、それでも、ここまでだという思いを抱くにつれ寂しさが強くなり、文鳥を手放してしまったことに後悔し始めていた。

「最期は独りか・・・。まあ、あいつと文鳥が無事なら、それはそれで良かったのかもしれないな。」などと、寂しさを紛らわせようと独り言を呟いた。とはいえ、この生殺しのような状況は精神に多大な負担がかかるため、この独り言も気休め程度にしかなっていないという実感があった。

それからまた、一時間、二時間と経ち、朝日は完全にその姿を現した頃、その重い扉が少しずつ開き始めた。もっとも、その少し前から奴らのものと思われる声が聞こえていたため、そろそろ時間か・・・、とは考えてはいたが、その実感が湧くと、逆に扉が開いて欲しくないと感じてしまう。しかし、その期待は裏切られ、終わりの時を告げる扉が開いてしまった。

「いよいよか・・・。」

そう呟き、中に入ってくるであろう奴らを迎えるために、大人しく待っていた。二人であればまだしも、一人では奴ら数人に歯向かうことなど、到底不可能であった。そうして扉が開いて中に入ってくる人物を見て、彼は驚きを隠せなかった。というのも、そこに立っていたのはあいつ・・・海辺弘樹だったからである。

「そんな、どうしてここに?」
「いや、君が僕に助けを求めるために知らせてくれたんだろ。」

そういうと、海辺は懐からぐったりとした文鳥を取り出して見せた。寒い雪の中を長時間飛んだためであろうか、体はまだ幾分濡れていて、触ってみると異様に冷たくなっていた。

「これは、私の文鳥・・・?し、死んでいるのか?」
「いや、かろうじて生きてはいる。でも、あのまま飛んでいたら本当にやばかったよ。今はとりあえず体の水分をふき取って、こうして懐に入れて温めている。だいぶ衰弱していたから、意識を取り戻すまでには、だいぶ時間がかかると思うよ。」
「そ、そうだったのか。でも、無事で何よりだ。それで・・・奴らは?どうやって中に?」
「いや、奴らは外で待っている。それに僕も君に助けられたんだよ。」
「それはいったいどういう・・・?」
「いや、こいつが僕のところにたどり着いた時、僕も奴らに囲まれて絶体絶命だったんだ。でも、こいつが来てくれた時、状況が変わったんだ。」
そういって、海辺は一息ついてから、再び話を続ける。
「信じられないかもしれないけど、こいつが来たとき、こいつの身体は金色に輝いていたんだ。」
彼の口から語られる信じられない光景に川端は息を呑んだ。
「なに、原理は至って単純さ。こいつの身体は雪の中を長時間飛んだせいで、体中に氷の粒がくっついていたんだ。そして、その時ちょうど夜が明け始めていた。そう、太陽の光が氷の粒で反射して、まるで金色に光っているように見えたんだ。それが、僕の元に降り立ってきた様子を見た奴らは、僕に対して突然、跪いてきたんだ。」
「そんな、いったいどうして・・・。」
「それも簡単な話だよ。」
そういって、海辺は自分が見つけたであろう、黄金の遺物を取り出した。そして、表面の模様を指さしながら言った。
「この表面にある模様、鳥の姿に見えるでしょ。それと、身分が高そうな人の姿も描かれている。もっとも、これが太古のものだとすると、金を鋳造したり、それに模様を描いたりする技術は、どのようにして得たのか疑問ではあるけれども。」
「それは、クトゥルフが関わっているとでも?」
「そうだね、位置的にも太古に沈んだと言われるルルイエに近い位置にあるし、それ以上に、君が見つけた遺物が何より、それを示しているじゃないか。」
そう言われて、川端も納得した。というのも、彼が見つけて奪われた遺物には、クトゥルフに近いタコのような姿の何かと魚の頭をした奴らに人間が奴隷とされている姿が描かれていたためである。奴らの祖先がクトゥルフやその眷属に奴隷として扱われていたと考えると、あの遺物に対してだけ、異様に執着した理由も何となく納得が行くものであった。
「さて、話を戻すけど、その時のこいつは僕たちには金色に輝いている鳥に見えたんだ。そして、この模様からもわかるように、金色の鳥は後世では王族か神の使いと関係が深いと思われる。だから、奴らは僕のことを、そういった素養のある人物だと勘違いしたんじゃないかな?」
「なるほど、それで奴らは、進んで道を開けてくれたのか。」
「そうだね、今は外で出てくるのを待っているみたい。というわけだから、早く脱出してしまおう。人が増えると厄介だしね。それに・・・、こいつも早くちゃんとしたところで治療しないといけないしね。」
「そうだな。」
そういうと、二人は部屋の外に出た。そこには、彼を捕らえた奴らが左右に分かれて、お辞儀をしていた。まるで、彼らを見送るかのように。
「さあ、行こうか。」
そう言って、奴らに見送られながら祠を後にした。そして、近くの砂浜に係留していた小船に乗り込み、島を後にした。

「今回は収穫は黄金の欠片だけか・・・。あれを持ち帰れなかったのは残念だった。」
「こっちの黄金の欠片があるじゃないか、これでも価値はあると思うよ。もちろん、そのまま換金した方がお金になるだろうけどね。」
「いや、我々は学者だ。こうやって、あちこち行っているのは、お金稼ぎのためでは無いだろう?」
「あはは、そうだね。君ならそう言うと思ったよ。まあ、欲張っちゃダメってことだ。」
と言って、海辺は川端に自分の手に入れた黄金の欠片を手渡したのだった。

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