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なおなおのクトゥルフ神話TRPG

クトゥルフ神話TRPGを中心として、ゲーム関連の話題を扱っていきます。



【第25回】短編小説の集い「心を蝕む」

短編小説

今回もギリギリとなってしまいましたが

毎月恒例のこちらの企画に参加させていただきます。

novelcluster.hatenablog.jp

今回のテーマは「病」ということで、それにちなんだお話しにしてみました。

また、今回はちょっとトリックを仕込んでみました。その結果として、話としては読みにくいものになってしまったかもしれません。

そのあたりの評価なんかも、してもらえると嬉しいかもです。

そのあたりの詳しい内容は自己振り返りにでも補足しようかと思っています。

 「心を蝕む」

心臓が早鐘を打つ。その鼓動が肺から大量の酸素を奪い取る。そのメカニズムに息苦しさを覚える。

黒瀬優子はその息苦しさに耐え切れず、一度深呼吸をする。
それによって一旦は平静を取り戻すものの、しばらくすると再び鼓動が早くなり始めるのであった。
その原因かどうかと言われると自信がなかったが、その不調は確かに先週末に幼馴染のさっちゃんと廃病院に探検に行った後から起こるようになった。
彼女自身はオカルトやホラーといったものについて疑っているため、そういった場所への興味はなかったが、さっちゃんは反対にそういったものへの興味が強かった。
だから、彼女自身は興味はなかったものの、押し切られる形で付いていくことになってしまった。

【呪い】といった非科学的なものを信じるわけではなかったが、先週行った廃病院はそういった理性を吹き飛ばすのに十分なほど、陰湿な空気に包まれていた。
その雰囲気は当時、様々な病気で非業の死を遂げた人たちの怨念が渦巻いているような錯覚さえ覚えるほど、不気味なほど澱んでいた。
普段は理性的な彼女ですら薄ら寒い恐怖に包まれるほどの場所であるからして、怨念のようなものが彼女自身の身に害をもたらしている可能性を、理性では否定するものの、本能は受け入れつつあった。
もちろん、不調を感じて直ぐに病院に行ってみた。しかし、診察した結果は『異常なし』であった。
ここまで体に不調があるにも関わらず、そんなはずはないと、病院をいくつもハシゴした。しまいには大学病院で精密検査まで受けてみたが、結果は変わらなかった。

ここまで調べても異常が見つからないという現実は、彼女に呪いや怨念といったもの、そして、その原因となった廃病院での出来事をフラッシュバックさせるには十分なものであった。
彼女がそれを思い返した瞬間、心臓はこれまでに無いほどに早く鼓動し、体は息苦しさと異様な火照りを感じ、その強烈さにその場にへたり込んでしまった。

あまりの苦しみに藁をも掴む気持ちで友人に電話をかける。電話は4、5回コールすると無事につながった。

「もしもし」

「もし、もし・・・、つ・・・ちゃん。ごめん、今、代々木・・・病院の・・・前の・・・公園に・・・いるんだけど、来れないかな?」

「優子、どうしたの?なんか苦しそうだけど。」

「ごめん、ホントに・・・苦し・・・くて。お願い・・・。」

「分かった、すぐ行くから、そこで待ってて。」

しばらくして、二人の女性が優子の元にやってきた、一人は電話の相手でもある天ヶ瀬月子、もう一人は石井里美であった。

「大丈夫?歩ける?」

「あ、さ・・・ちゃんも・・・来て・・・くれたんだ・・・。ありがとう。」

問いかけに息も絶え絶えになりながら答える。二人は彼女の両脇に来て、彼女の身体を支えると、とりあえず近くの喫茶店まで運んでくれた。
喫茶店に着く頃には、二人が来てくれたことに対する安心感もあってか症状がだいぶ収まっており、先ほどのような危なっかしさは鳴りを潜めていた。
喫茶店で三人はめいめい飲み物を注文する。この時には彼女の症状もすっかり収まっており、普段通りの様子になっているようであった。

「しかし、一体どうしたの?あんな所でへたり込むなんて・・・」

月子は突然の事態に気になったことを尋ねてきた。
優子は先週末に廃病院に行ったこと、その後から、時々、特にその時のことを思い出すと動悸が起こること、この身体の異常について病院をあちこち回ってみたが特に異常がなかったことなどを話した。

「ふーん、まあ、それは病院いくら回ってもわからないだろうねぇ。医者じゃ治すこともできないだろうし。」

話を一通り聞いた月子は呑気な口調でそう答えた。優子は自分の感じている危機感からかけ離れた答え方にムッとしながら彼女の方を見やる。
すると、彼女はあろうことか薄ら笑いを浮かべていたのを見て、思わず声を荒げてしまう。

「ちょっと!これでも私、とっても苦しんでるんだから、少しは真面目に聞いてよ!」

その非難を聞いて、彼女は苦笑いを浮かべた。

「ああ、悪い悪い。別に悪気があるわけじゃないんだ。でも、あまり気にしすぎない方が良いよ。」

「治す方法は無いの?もしかして、怨念とか呪いとかだったりするんじゃないの?」

「少なくとも、そういう類のものじゃないと思うけど・・・。不治の病なんて言われることもあるしね。」

「そんな・・・。何とかする方法は無いの?」

「こういうのは自分で原因を見つけるのが良いと思うんだけど・・・。うーん、そうだ、聡史にでも相談してみたら?仲良いんでしょ?」

聡史・・・とは木村聡史で彼女とは昔から仲が良かった男子であった。しかし、彼に相談するように勧められて優子の心が若干ざわつき始める。
何よりも一緒に遊んだことはあったが、相談事のような重たい話をしたことは一度もなかった。

「な、なんで・・・?うーん、あまり相談したくないんだけど・・・。」

「それは・・・、まあ、あいつは色々と詳しいから、優子の悩みの答えも見つかると思うよ。それに知らない仲じゃないでしょ?」

「それはそうだけど・・・。」

月子に背中を押されるようにして、優子は聡史にLINEを入れた。
メインの話しがひと段落ついたため、二人と他愛の無いことから将来のことまで色々と結論が出ないような話を延々とした。
特に優子、里美と月子は進級でクラスが離れ離れになってしまい長時間話し込むのが久々であったため、お互い満足して解散する頃には日が西の空に沈みかけていた。
そういった一見無駄とも思えることではあったが、追い詰められかけていた彼女の気分を晴らすにはちょうど良い機会であった。

家に帰った優子は聡史に相談する内容を悩んでいた。

どうでも良いような話であれば問題無いのだろうけれど、こう改まって相談事をするのは初めてのことであったため、どう切り出すかといったところからして皆目見当がつかなかった。
とは言うものの、つーちゃんも頭は良い方だから、完全に的外れなことは言っていないはずである。
しかしながら、彼女のあの時の表情を思い返すと、もしかしたら悪意があったのではないかと疑いそうになる。
いや、もしかしたら本当に呪いや怨念で、今日の彼女の言葉もそれによって操られていたのかもしれない、などという考えすら出てきてしまう。
本当にそうなのだとしたら、何を信じたらいいのだろう?と頭の中を答えの出ない思考がグルグル回ってしまう。

そうして眠れない日が3日ほど経ち、肉体的にも精神的にも限界になり、思考もかなり投げやりになっていた。

「もう、いいや。考えても答えは出ないし・・・。」

そう考えると、聡史に放課後会えないかメッセージを送った。

 


数日後、優子と月子、そして里美は先日の喫茶店で待ち合わせをした。
月子は喫茶店の入り口から優子の表情を見やる。その表情は数日前とは打って変わって晴れやかになっていた。
しかし、それ以上に月子を驚かせたのは、優子が数日前とは比べものにならないほど美人になっていたことである。
もちろん助言をした彼女には、予想はしていたが、それを差し引いても驚くほどの変貌ぶりであった。
当然ながら顔の造形そのものは変わっていない、しかし、化粧っ気のなかった数日前とは異なり、随所に化粧が施されていた。

「おーい、こっちこっちー。」

月子と里美を優子は見つけると、自分の座っている席をアピールする。

「その様子だと解決したみたいね。」

「そうそう、つーちゃんとさとちゃんが相談に乗ってくれたおかげだよ。」

「ま、私は何もしていないけどね。」

里美は肩をすくめながら答える。

「あの日、私のために駆けつけてくれただけでも随分助かったからね。ありがとう。」

直後、店員が来たので三人がそれぞれ飲み物を注文する。

「まさか、あれが『恋』だったなんてね。さっちゃ・・・聡史くんに話したら、悩んでいたのが不思議なくらいあっさり解決したよ。まあ、こういうの初めてだったし、パニック症候群も併発していたのもあって酷い症状だったみたいだけど。」

「そっちの呼び方が治るのには時間がかかりそうね。」

「えへへ、まあ、しょうがないよ。小さい頃からずっとだもん。でも、怒られちゃったから直そうかなって、ね。」

「症状が酷くなったのは、パニック症候群もあるけど『呪い』を意識していたのも大きいかもね。どっちにしても治ったなら良いじゃない。」

「そうだね。でも何で不治の病なんて言ったの?もう治ったと思うけど。」

「昔から言うのよ。『恋は不治の病』ってね。」

そう言うと、月子は悪戯っぽく微笑んだ。