今月のテーマは「病」でした。
やはりというかなんというか、病というと恋の病かなと思ったわけですが、そういったテーマの作品が多かったですね。私も含めて。
何より、恋の病は重い話になりにくいのが多いため、作品として扱うにはやりやすいということもあるかなと思います。あとはSF的なものが扱いやすいかなと。
SFの場合は、近未来ということで、病気の与える絶望感が軽減されるというのと、ファンタジーだけに現在存在しない病気を扱えるのが強みですね。
というわけで、早速短評を書いて行きたいと思います。今回も作品数が多めですので、2回に分けて書いて行きます。残りは近いうちに。
腱鞘炎の話から始まったので腱鞘炎についての話かと思いきや、後半には意外な展開を見せる作品でした。
ただ、最初の伏線から、その予兆はあったものの、その後の腱鞘炎の話から最初の伏線は腱鞘炎のことと思い込んでしまうようになっているのが実に巧妙でした。
しかし、改めて読み返してみると、明らかに腱鞘炎のことを言っていないわけで、それを勘違いしてしまうことに不思議な感じがありました。
私の方も似たようなトリックを今回使っているのですが、こういう作品はトリックに拘ると、読み難い文章になりがちですが、この作品はとても読みやすく、サクサク読み進めることができました。
非常に重い病気、と言っても実害のあるものではない、にかかったある男性が恋の病を治すために重い病気をどうにかするという話です。
愛という病の重さはあるものの、それ以上に、これまで治療の目処のなかった病に対する特効薬を1年で開発させた情熱が恋という病の重さを物語っているような気がします。
もっとも、重すぎる病以上に重すぎる愛は拒絶されがちであるのが悲しいところではありますが。
そのあたりのジレンマな部分についてもよく描かれている作品だと感じました。
恋の病という話ですが、どことなくコメディタッチで憎めないキャラがいい味を出しているように思います。
細かい部分は置いておいて、話の進め方が自分の作品に似ているようで不思議な感じはあります。
ただ最初、咲と七海を逆で読んでいたので、途中おかしな感じになってしまいましたが、何故かと読み返してみたところ、最初の台詞の直後に咲の名前が出てきていて、勘違いしてしまったのだなと思いました。
もちろん、よく読めばそういう勘違いはないのですが、最初の台詞と紐付けるためにも、最初に七海の名前を出した方が良いような気がしました。
心の病というのは、非常に相対的なもので診断が難しいと言われますが、それは、この作品で描かれているように主観と客観の相違があることが大きいように思います。
相手を苦しめるために、相手を甘やかす、というのは決して矛盾しているわけではないのかなと思います。
仏教でも六道のうち悟りを得られる可能性があるのは天人道ではなく人間道であると言われていますが、それは天界には苦しみがなさすぎることが原因であったりします。
結果、最期には天界の人はこれまでの苦しみを数日間で一気に味わう羽目になるわけですが、そう言った教訓にも通じるところは興味深いところであります。
ですが、そう言った複雑なことを考えさせることなく、シンプルに淡々と話を進めて、すっきりと終わらせる感覚は読後になんとも言えない清々しさを感じさせる作品でもありました。
過去のトラウマ、そして、それに起因するストレスから演劇病を発症した主人公がそこから立ち直る過程を描いた作品でした。
心の病というと、薬を飲むのが普通と思われていますが、実際の話として、薬で症状が一時的に緩和することがあっても根治することは絶対になく、むしろ根本的には症状が悪化するという説もあります。
この作品では、その心の病に対する答えとして薬と対になる親友という存在を挙げています。
結果、主人公の症状は改善されていく予兆を示しており、心の病に対して安易に薬を処方することに対して疑問を投げかけている点は非常に興味深いと思います。
話の組み立てもすっきりしていて、スッと入ってくる点も素晴らしいと感じました。