なおなおのクトゥルフ神話TRPG

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【第26回】短編小説の集い「プレゼント」

今月も書いてみましたが・・・。

今月もこちらの企画に参加させていただきます。

novelcluster.hatenablog.jp

とは言うものの、あまり推敲できていないので、話としては後半がぐちゃぐちゃな感じになってしまっている感は否めません。

ただ、今回はミステリーではないので、その点は気楽に読んでもらえればと思います。

 プレゼント

「ふう、暑いな。」

柊雪人(ひいらぎゆきと)は汗を拭いながら呟きながら、去年の今頃のことを思い出していた。
去年の今頃はとても寒く、セーターやコートやマフラーなどを着込んでいたし、時には雪が降ることもあったことを考えると、今の状況は真逆と言っても良いほどであった。
この1年で彼を取り巻く環境は大きく変わってしまっており、最初はその変化に戸惑うことも多かったが、最近では戸惑わない程度には適応できていた。

しかし、年末のこの時期だけは戸惑いもあり、それに慣れるのはだいぶ先になりそうだなと感じていた。
何より、この時期はクリスマスや大晦日などのイベントが目白押しであるし、それらのイメージは去年までのものが強かった。
クリスマスといえば、雪を模した綿や電飾に飾られたもみの木と雪の上をサンタクロースがトナカイの引くソリに乗って走ると言ったイメージであったし、大晦日は年越し蕎麦を食べて、コタツに潜って年末恒例のテレビ番組を見ながらみかんを食べると言ったものが彼の中のイメージとして存在していた。
しかし、今年に関しては、それらのイメージの通りに過ごすことは難しいと感じていた。
この暑さでは雪が降ることなどありえず、コタツに潜るのも正気の沙汰ではなかったし、それだけではなく、この一年の激動により正月恒例のテレビ番組も見ることは難しいと考えていた。
もちろん、テレビ番組自体はあるにはあった、しかし、放送されている番組は理解不能なものばかりであったため、暇な時には動画サイトなどを見て時間を潰すことが多かった。

もっとも、彼のように完全に馴染めていない者は少数派で、多くの者は完全に適応しているように見えた。そうでなければ、暑いからと言って、土日になったからと言ってビーチに大勢くり出しているはずないからである。
彼の住まいが海の近くにあったこともあり、そういった光景が普段から嫌でも目に入ってきていて、それを見ては説明のつかない疎外感のようなものを感じていた。

「暢気な奴らだ。」

そう毒吐いてみたものの、傍から見れば明らかに適応できていない自分が適応できている周囲に嫉妬しているようにしか見えていないのだろう。
彼自身も実際に心の中では、そういった感情が存在しているのを認識しており、それが彼の心をなお一層波立てるのであった。
一通り気分を害しながら家に着くと、家の前に大きい、と言っても人の背丈くらいの大きさではあるが、モミの木が立っていた。

「なんだよ、これ。」

「お、雪人、帰ったか。どうだすごいだろう?クリスマスも近いから買ってきたんだ。」

不満交じりの彼の呟きに、父は陽気な口調で答えた。
父は彼とは違って陽気で能天気な性格なため、この異質な環境にも真っ先に適応していたようであった。

「父さんはな、お前のことが心配で少しでも元気づけられればと思って、な。」

「ふぅ、そもそも誰の・・・。」

「おっと、それ以上は言いっこなしだ。お前の気持ちもわかるが、折角だし今の環境を純粋に楽しんだ方がお得なんじゃないか?」

「・・・まあ、考えておく。」

「おい、ちょっと待てって。あとで一緒に飾りつけしような・・・。」

言い合っても無駄だと感じた彼は、引き留めようとする父の言葉を無視して自分の部屋に向かった。
そして、部屋に入りベッドに体を預ける。
父の考えは理解はしていて、彼を心配して元気づけたいと思っていることも、彼自身よく分かっていた。
しかし、分かっているからと言って素直に受け取れるかというと、必ずしもそうならないところが人の心のもどかしいところでもあった。
反抗期という言葉もあるが、今の自分は父親に反抗したいわけではなく、単純に自分が置かれている状況に戸惑っているだけだ、と解釈していた。
とはいうものの、本意ではない言葉を反射的に返してしまう自分に嫌悪感を感じて独り思い悩むことも少なくなかった。
ただ一つ幸運だったのは、父が自分のそういった言葉を受け止め、それでもなお好意的に解釈してくれることであった。


雪人はベッドの上で目を覚ますと周囲を見渡した。
脇にある目覚まし時計は最後に確認してから二時間ほど過ぎており、そこで初めて考えている間に眠ってしまっていたことを理解した。

「ふぅ、眠ってしまっていたのか・・・。やっぱり、まだまだ慣れないな。」

そう呟くと、ベッドから降りて居間に向かう。
窓の外は日が落ちて薄暗くなっていた。
居間には父がいて、夕食の支度をしていた。
テーブルの上にはご飯とみそ汁、それとおかずが二、三品置かれていた。

「おう、来たか。まあ座れ。」

そう手短に言うと、自らも椅子に座った。
食材の入手には困ることがなかったとはいえ、それほど器用でない父の作る料理であるため、内容はいたって慎まやかなものであった。
慎まやか、とは言っても栄養については十分に考えられており、そのことからも父が自分のことをいかに大切に考えているかが伝わってくるようであった。
夕食を終え、風呂に入り、授業の予習復習をしたり読書のために机に向かっていた。

そうやって静寂の時が過ぎていったが、突然、部屋中の物が揺れ始めることによって、その静寂が破られた。

「またか・・・」

そう呟くとあたりを見回す。
幸いにして、物が落ちたり倒れたりすることはなさそうであったが、かなり酷い揺れのように感じていた。

「おーい、大丈夫か?」

しばらくして揺れが収まると、父が声をかけてきた。彼は大丈夫、と返すと、窓の外を見やる。
窓の外には、白い綿毛のようなものがたくさん、ふわふわと舞っていた。
それはまるで雪を思わせるようで、その様子を見ていた彼の心は少し軽くなった。

「あちゃー、またか、大丈夫だと思うが今晩は危ないから外に出るなよ。」

背後からの父の声に頷くと、彼はしばらく窓の外を眺めていた。

翌朝、家の外にあったクリスマスツリーを見ると真っ白になっており、父は少し困った顔をしながら積もった火山灰を落としていた。と言っても、この辺りは火山からは数十キロ離れていて稀に灰が少し降ってくるだけだが、もっと近いところは小石みたいなものが降ってくることもあるらしかった。
普段であれば、年に数回あるかどうかくらいのため雨が洗い流すのに任せることが多かったが、今回はクリスマスが近いこともあって、わざわざ落としているのだということは理解できた。
しかし彼にとっては、今の環境に馴染むことで精いっぱいで、クリスマスを祝うなどという気分にはなれなかった。
それは環境が大きく変わってしまったこともあったが、何よりも大事な人が一人欠けてしまったことも非常に大きかった。

そしてクリスマス当日、父のしつこい誘いを断りきることができずツリーの装飾を手伝い、日が落ちかける頃にはそれなりに立派なツリーが出来上がっていた。

「雪人、すまないがメモに書いてあるものを買ってきてくれないか?」

ツリーの飾りつけが終わると、父が紙切れを渡しながら言ってきた。

「ん、良いけど・・・。」

そう言って彼はメモを受け取り中を見た途端、彼の両目が見開かれ驚きの表情になっていた。

「父さん、こんなものいったい何のために・・・。」

「ああ、悪い。あとでちゃんと説明するから、とりあえず買ってきてくれないか?もう、あまり時間もないし。」

「・・・わかった、ちゃんと後で説明しろよな。」

そう言って、彼は買い物に出かけたが、買い物をしている間中「なぜ?」と考えていた。
彼がそう思うのも無理はなかった。
何故なら、彼に渡されたメモにはホールケーキの他にいくつかのベビー用品が含まれていたからである。


彼はメモに書かれていた品を一通り買い集め、荷物を抱えて家に戻ってきた。
家の窓にはカーテンが引かれており、家の中の明かりがうっすらと漏れていただけだった。
家の中に入ると、案の定、玄関や廊下の明かりは消えており薄暗くなっていたが、彼は面倒だったため明かりを点けずに居間へと向かった。
彼が居間の前まで来ると居間の扉が開き、中から父が出てきて彼を部屋に招き入れ、それに従うようにして中に入った。
しかし、居間に入った彼が目にしたものに、彼は驚きのあまり言葉が出なくなってしまった。
そこには数人の男女、もちろん彼はよく知っている、がいたためである。

「ロバート、メアリー、ジャック、アリス、・・・みんなどうして・・・?!」

そう、居間にいたのは彼のクラスメート達であった。雪人が戸惑っていると、ロバートが話し始めた。
もっとも英語であったため、断片的にしか理解できなかったが、クラスメート達は彼が自分たちに馴染めていないことを心配していて、どうしようか相談していたところ、親経由で彼の家でクリスマスパーティーを毎年やっているという話を聞いて、みんなで押しかけて盛大なパーティーにしよう、ということになったということである。
それにあたってサプライズなものにしようということで、買い物に行ってもらうことにしたということらしかった。

普段の学校ではなかなか近寄りがたい感じになってしまっていたが、自分の家という安心感も手伝って、彼はパーティーを通してクラスメートと打ち解けていった。
そうしてパーティーを楽しんでいると、父が自分に注目するようにアピールしたため全員が注目した。

「今日は皆さんありがとうございました。ここで私から素晴らしいニュースがあります。」

そう言って、父はスマホの画面をみんなに見せる。そこには一人の赤ん坊が映っていた。

「彼女は、今日生まれた私の娘です。雪人の妹です。」

そう満面の笑みを浮かべて宣言すると、クラスメート達は「おめでとう」とか「かわいい」とか言っていた。
もちろん、英語で。
しかし、肝心の雪人本人が初耳だったため呆然としてしまっていた。

「ちょっと、なんだよそれ。聞いてないよ?!」

「あれ?母さんから聞いていなかったのか。落ち着いたら話そうと言っていたのにな。転勤、引越し、こっちでの編入試験とか重なっていたからなあ。悪い悪い。」

「母さんも、しばらく実家に帰るから、って言っていたから、てっきり離婚したのかと思ってた。」

それからの父の話をまとめると、こんな感じだった。
父のオーストラリアへの転勤が決まった直後、揃って引っ越しする予定であったが、直後に母の妊娠が判明したため、急遽一人日本に残ることにしたということである。
不慣れな土地で余計なストレスがかかると不味いという理由からであったが、かと言って一人残すわけにもいかず、仕方なく勝手知ったる母の実家に協力してもらっていたとのことであった。
このことをすぐに彼に伝えるか悩んだが、こちらの生活や編入試験のこともあり、余計な心配をかけさせないようにするため黙っていたとのことであった。
とはいうものの、こちらに引っ越してから生活に慣れるどころか、父との関係も疎遠になりがちで話す機会もなくなり、結局、今日になってしまったとのことである。

彼からしてみれば、何でもっと早く言ってくれなかったのか、と言いたいところであったが、自分が父の言葉に耳を傾けなくなっていたのも事実だったこともあり、真相のあまりのバカバカしさに思わずため息が漏れてしまった。
そうして一通り頭の中を整理したあと、父に向って言った。

「ということは、妹がクリスマスプレゼントってこと?」

それを聞いた父は苦笑いを浮かべていた。