引き続いて、残りの作品の感想も書いていきます。
前回はこちらの最初の4作品の感想を書いていきましたが、今回は残りの作品の感想を書いていきたいと思います。自分の作品は最後に振り返りとして書いていきます。
サシ呑み
舞台背景がこの企画をサークルとして見立てて、それと競合するカルチャースクールの登場によって、瓦解しつつある状況における忘年会的な飲み会を描写した感じのお話でした。
この話のような展開に実際になるとは思えませんが、そこは話の本筋ではありませんので、アクセント的なものと捉えるのがいいのかなと感じました。
この話の中で何よりも面白いのは、そういうサークルに集まった二人が、実は旧友でありながら、片方の変貌によりもう一人は全く気付いていなかった、というところかなと思います。
しかしながら、こう言った赤の他人と思っていた同じ趣味を持つ相手が、実は旧友だったというのは、まさしく奇縁だなと感じました。
こう言った表現を淡々と話に落としていく、と言いながらもわずかなメリハリを与えながらいい感じに落としていく構成は、私にとっては苦手な部分だったりするので参考になります。
船の国
海と空だけの世界に浮かぶ存在がクリスマスの願いによって地球に生まれ変わる話です。
地球では猫として生まれたものの、飼い主のために願うことにより、地球での生を終えるわけですが、飼い主と主人公の温度差は興味深くもありました。
ただ、この話のメインは地球での生活と願いの部分かなと感じましたので、そちらの部分の説明に文章を割いた方が良いような気がしました。
というのも、船の国の生活はどちらかというとファンタジーな印象ですが、地球での生活はリアリティな印象があり、リアリティの実感を持たせるためにも、地球の悲惨な現実を具体的に描画すると、主人公たちの心情に近づきやすくなるのかなと感じました。
もっとも、あまりリアリティを重視すると血生臭くなってしまいますが、「死」という概念がすぐ目の前にあるというのを実感できるような描写があると良いのかなと。
だれかに
電車の中で偶然に出会った女性と主人公とのやりとりのお話しでした。
怪我をしていたり、心ここにあらずという表情をしているということからも、主人公だけでなく読者にも何かある、と思わせつつも、詳細は知りようがないという展開は読者に対して想像の余地を大きく残しているようにも感じました。
とはいえ、現実的な描写としてはある程度の情報が提供されていることもあり、だいたいの範囲には収まりますが、ややホラー的な展開もあり得るのかなという気がしました。
ただ欲を言えば、もう一つピースがあると話に膨らみが出るのかなという気がしました。
先の短評で「奇縁」というのを使いましたが、ポケットティッシュから始まる縁のようなものを匂わせるエピソードがあると良かったかなと思います。
例えば、家のポストにポケットティッシュ(当然新品ですが)が投函されていて、それが偶然、その時に渡したものと同じものだったとか、街中でポケットティッシュを配っていて、配っている人がその人に似ていたので、思わず受け取ってしまった、といったような感じです。
今回の振り返り
今回は真夏のクリスマスをテーマとして書いてみました。もちろん、ファンタジー的な要素は全くなく、単に南半球の国でのクリスマスのお話しです。
ただ、それを単純に描写するだけでは面白味に欠ける部分がありましたので、肝心の南半球であることを伏せて、なるべく悟られないような表現を使って、主人公の状況を描写していきました。
ポイントとしては、いかに詳細かつ嘘のない表現を使って読者を騙すことができるか、というところにありました。この辺りは前回の叙述トリックに通じるものがありますが、トリックではなく、そもそもの舞台装置自体を騙すような感じですね。
だから、書いている間は正解を頭の中に描きつつも、近未来の別の世界を描いているかのようなイメージで書いていました。その辺の詳細をボカすためにも、主観的な表現が多用されていたのがあり、それが若干読みにくさにつながったのではないかと感じました。
ただ、本来であれば、テレビからは英語のニュースが流れてくるとか、オーストラリアなので季節が逆になっているとか、現地の人が現地の環境に馴染んでいるのは当たり前な話だったりとか、そう言った部分を全て出さずに描写しているため、冗長で主観的な表現が多いため、実際に読むと混乱するかもしれないと感じました。
こちらに批評をいただきました。概ね、自分が感じていた「もやっと」したものがうまく言語化されていて、「なるほど」という感じでした。
トリックの基本的な意識として「悪意」というのがあるのは確かにそうですね。「悪戯心」程度のものではありますが。この辺りはやはり自分の性格上、他の方のように噛めば噛むほど味が出るような作品を書くのが苦手なのかもしれません。
実のところ、批評に書かれている「父と子の和解」というのは、トリックによる副産物のようなものでした。当初ベースとして考えていたのが「環境の変化」でした。
クリスマスに限らず、師走と言えばやはり寒さとか雪とかいうイメージが強いわけですが、そのイメージは地球の中ですら、ごく一部の限られた地域のものなわけで、今回はそういった常識を壊すというのがベースにありました。
このテーマを実現するためであれば、あえてトリックを使わなくても良かったな、というのはありました。ただ、自分自身がうまく受け入れられていなかったように思います。その点は他者からうまく言語化された形で提示されたことによって、自分の中にあった課題を明確にできたような気がします。